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東京地方裁判所 昭和41年(行ウ)106号 判決 1967年8月16日

原告 猪又理吉

被告 新宿区長

主文

別紙目録第一及び第二の土地の各一部(別紙図面の斜線部分)について、東京都知事が昭和三〇年一月二六日指定番号第三六号をもつてした道路位置指定処分は、右図面ニ、ホ、ヘ、ト、チ、リ、ニを結ぶ直線で囲まれる部分(別紙目録第一の土地にあたる部分)につき無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求原因として、次のとおり述べた。

一、別紙目録第一の土地は原告の所有であり、その北側に隣接して同目録第二の土地があるが、訴外喜多島仙太郎は昭和三〇年一月一一日、右第一及び第二の土地にまたがる別紙図面の斜線部分につき道路位置の指定を受けることの承諾を所有者である原告らから得たとして、訴外喜多島正悦名義で東京都知事に対し道路位置指定の申請をし、同知事は、右申請にもとづき昭和三〇年一月二六日指定番号第三六号をもつて前記斜線部分に道路位置の指定をし、同年二月八日その公告(告示番号第一三五号)をした。

二、しかし、道路位置の指定の申請については、道路の敷地となる土地の所有者の承諾を必要とするところ、原告が右喜多島仙太郎の本件申請を承諾したことはなく、右申請書に添付された図面中の承諾書欄にある原告の署名捺印は、喜多島仙太郎が勝手に原告の署名及び印鑑を偽造して作成したものである。したがつて、土地所有者の承諾を欠く申請にもとづいてなされた本件道路位置指定処分は無効である。

三、なお、右指定処分後昭和四〇年四月一日から地方自治法等の一部を改正する法律(昭和三九年法律第一六九号)及び地方自治法施行令等の一部を改正する政令(昭和三九年政令第三四七号)の施行により、道路位置指定に関する事務は、東京都知事から特別区長に移譲されたので、本件道路位置指定処分の無効確認の訴えの被告は新宿区長となつた。

四、よつて、本件道路位置指定処分が別紙図面のニ、ホ、ヘ、ト、チ、リ、ニを結ぶ線内の土地につき無効であることの確認を求める。

被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、「請求原因第一項の事実は、本件道路位置指定申請の実際上の申請者が訴外喜多島仙太郎であつたとの点を除き、いずれも認める。右の実際上の申請者が誰であつたかは知らない。同第二項の事実は知らないが、本件道路位置指定処分が無効であるとの主張は争う。同第三項の主張は認める。」と述べた。

(証拠省略)

理由

東京都知事が昭和三〇年一月二六日別紙目録第一及び第二の土地にまたがる別紙図面の斜線部分について、訴外喜多島正悦名義の同年一月一一日付申請にもとづき、指定番号第三六号をもつて道路位置指定処分をし、同年二月八日その公告(告示番号第一三五号)をしたこと、右第一の土地は原告の所有であり、別紙図面のニ、ホ、ヘ、ト、チ、リ、ニを結ぶ直線内の部分がその一部であることは、当事者間に争いがない。

そして、証人喜多島仙太郎、同児玉三夫、同猪又康之の各証言とこれらにより真正に成立したと認められる甲第一号証によれば、右道路位置指定の申請は、第一の土地の西側隣地(新宿区市谷富久町一一八番七六)の所有者である訴外喜多島仙太郎がその土地にアパートを建築するため、同地の所有名義人である喜多島正悦の名義でしたものであるが、原告は右の申請を全く知らず、道路位置の指定を受けることについてはもとより、第一の土地の使用そのものについても承諾を与えたことはなく、申請書添付の図面(乙第一号証の三)にある原告名義の承諾書等は、喜多島仙太郎が原告の承諾を求めることなく、勝手に所要の事項及び原告の氏名を記載したうえ、その名下に偽造した原告の印鑑を押捺して作成したものであつて、原告のなんら関知しないものであることが認められ、証人喜多島仙太郎の証言中右認定に反する部分は信用することができない。

そこで、かかる目的土地の所有者の承諾を欠く申請にもとづいてなされた道路位置指定処分の効力について考えるのに、本件道路位置指定当時施行されていた建築基準法施行規則(昭和三四年建設省令第三四号による改正前のもの)第七条及び東京都建築基準法施行細則(昭和三六年東京都規則第一一六号による改正前のもの)第八条によると、建築基準法第四二条第一項第五号による道路位置の指定を受けようとするものは、申請書に当該土地の所有者の承諾書を添付すべきものと定められているが、その趣旨は、道路位置の指定がなされると、以後当該土地の所有者はその指定部分に建物等を建築することを禁止される(同法第四四条第一項)など土地所有権に対する重大な制限を受けることになるので、その所有者の承諾ある場合に限つて右の指定をなしうることとしたものと解される。したがつて、道路位置の指定を受けることに対する当該土地所有者の承諾は、道路位置指定処分の重要、かつ不可欠な前提要件をなすものというべきであつて、本件のように右土地所有者の承諾が全く存在せず、申請書に添付されたその承諾書が偽造であるような場合には、右申請にもとづき当該所有者の承諾ありとしてなされた道路位置指定処分は、その土地に関する限り、存立の基礎を欠くものとして無効であると解するのが相当である。

してみると、東京都知事がした本件道路位置指定処分は、原告所有の第一の土地に属する別紙図面のニ、ホ、ヘ、ト、チ、リ、ニを結ぶ直線内の土地については無効というべきところ、昭和四〇年四月一日以降道路位置指定に関する事務の権限が東京都知事から特別区長に移譲されたことは、昭和三九年法律第一六九号による改正後の建築基準法第四二条第一項第五号、第九七条の三第三項及び同年政令第三四七号による改正後の建築基準法施行令第一四九条第二項第二号、同条第三項等の規定によつて明らかである。

よつて、被告に対して本件道路位置指定処分の無効確認を求める原告の本訴請求は正当であるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 緒方節郎 小木曽競 佐藤繁)

(別紙)

目録

第一東京都新宿区市谷富久町一一八番七五

宅地三〇〇、〇三平方米(添付図面ニ、ホ、ヘ、ト、チ、リ、ニを結ぶ直線で囲まれる部分はその一部)

第二同所同番七四

喜多島一悦所有名義宅地(右図面イ、ロ、ハ、ニ、リ、イを結ぶ直線で囲まれる部分はその一部)

図<省略>

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